三中 信弘 (農環研,東京大院農学生命科学)
岩崎 貴也 (頭京大院総合文化研究科)
川北 篤 (京都大生態学研究センター)
Sean Lee (東京大院理学系研究科)
1960年代以降,生物体系学においては分岐学・表形学・進化分類学が生物分類の方法論をめぐる論争を戦わせた. 同時代の歴史生物地理学もまた生物体系学の”パラレルワールド”として地理的分布の成因をめぐる分散(dispersal) vs 分断(vicariance)を土俵とする分岐生物地理学や汎生物地理学を巻き込んだ学派論争, さらにパターン分岐学を踏まえた生物系統学と生物地理学との統合が1980年代まで続いた. 生物地理学と共進化解析と遺伝子系図学が解こうとする問題には共通性があるという認識が広まったのもこの時期だった. さらに,生物の系統推定法が,言語や写本などの系統推定へも応用可能であるという示唆は,オブジェクトを問わず, 系統関係と地理的分布を究明する方法論が共有できる方向性を指し示した. 1990年代に入り,分子データに基づく系統推定論が広く浸透し,系統地理学(phylogeography) として個体群レベルの地理的分布を研究することが可能になった.それとともに, 因果過程に関する複雑な統計モデリングを踏まえた系統学的・地理学的な研究”モデル−ベース” 的なアプローチが現在にいたるまで展開されつつある. 過去半世紀にわたる体系学と地理学は研究ツールこそめまぐるしく変遷してきたが, 問題解決の目標設定とそのための理論と方法論は連綿とつながってきたと考えられる.